東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1648号 判決 1977年5月18日
控訴人
橋本豊造
右訴訟代理人
佐野栄三郎
被控訴人
東京商事株式会社
右代表者
重住克巳
右訴訟代理人
井上忠巳
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
当裁判所は、控訴人の本訴請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり改めるほかは、原判決の理由と同じであるから、その説示を引用する。
原判決理由欄三項中、「しかし」(三枚目表末行)以下を次のとおり改める。すなわち
本件各手形金債権が昭和四三年六月一日及び同年七月一日の各到来によりいずれも時効により消滅しているが、本件各手形の振出人である被控訴人の受取人である橋本金属株式会社に対する原因関係たる伸銅品買掛金債務も、昭和四二年六月一日及び同年七月一日をもつて、各手形金相当分につきそれぞれ時効により消滅していることは当事者間に争いがなく、本件各争形金債権が時効により消滅した時点においては、右買掛金債務も時効により消滅していて被控訴人に利得があることにはならないから、右各手形の所持人の日本勧業銀行には、利得償還請求権は発生しなかつたと解すべきである。けだし、利得償還請求権の成立要件としての利得とは、時効または手形の欠缺によつて手形上の債務を免れたことをいうのではなく、手形授受に関連して、原因関係上、手形債務者の受けた利益をいうものであるところ(大審院判決大正六年七月五日、民録二三―一二八二)、被控訴人が原因債務の支払を免れたのは、手形の授受とは関係のない消滅時効の完成という法律上の原因に基づくものであるから、それによつて被控訴人に利益が生じても、それは右にいう利得とはいえないからである。従つて、勧銀は利得償還請求権を取得していないのであるから、控訴人もこれを承継取得するに由ないものである。
以上によると、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は結局相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(渡辺一雄 田畑常彦 丹野益男)